長坂常が綴る、『半建築』という感覚。

建築と家具のあいだ、未完であること、見えない開発。建築家、長坂常が考える「半建築」の魅力と可能性とは。

歴史ある印刷工場の軌跡を残しつつ、通り大きく開かれたガラスのファサードや展示什器にも転用可能な可動式の壁で、空間の印象を大きく変えたBaBaBa。リアルとオンラインのはざまを行き来しながら、オルタナティブな活動を試みるBaBaBaの設計を担当したスキーマ建築計画の長坂常が、自身が唱える独自の建築哲学をまとめた著書『半建築』を刊行した。

建築家の書籍としては珍しく、図面や細かな設計に関する専門的な著述はなく、いかに自身の体験や感覚が関わった建築&デザインプロジェクトに反映されていたかを、等身大の言葉で表現。レゲエに傾倒した10代の記憶、大学からスキーマ設立に至るまでのエピソード、シェアオフィスHAPPAをつくりながら感じたことから始まり、代表的なプロジェクトの背景を紹介。現地で解体しながら無駄な要素を引き算していった初期の作品「sayama flat」から、複数の店舗を担当した「Blue Bottle Coffee」や「DESCENTE BLANC」。そして自ら古民家を買い取り、仲間と協力しながら改修、運営までに携わった最新作「LLOVE HOUSE ONOMICHI」に至るまで、25年あまりのキャリアを振り返りながら、一つひとつの物語を丁寧に語り紡いでいる。

「半建築」とは、実際に空間を使う生活者が自由に入り込むことができない、“余地のないキメ顔”の建築ではなく、“抜き差しなる関係”を受け入れるおおらかさを持つ存在。常に現場に赴き、自身の感性をフルに活かしながら、建築を取り巻くすべての要素をリアルに生かしていく長坂の姿勢が、いかに我々の日常を活気づけ、時代を更新しているかが、本著を通して見えてくる。

Musashino Art University No.16 Building, 2020 ©Kenta Hasegawa
DESCENTE BLANC Yokohama, 2017 ©Kenta Hasegawa
ColoRing, 2013 ©Takumi Ota
Sayama Flat, 2008 ©Takumi Ota
SENBAN/Salone del Mobile 2021 ©Schemata Architects
BaBaBa, 2021 ©Takumi Ota

『半建築』

著:長坂常

デザイン:長嶋りかこ+稲田浩之/village®︎

発行:フィルムアート社

四六判・並製、256ページ

2,640円

http://filmart.co.jp/books/architecture/nagasakajo/

長坂 常|ながさかじょう

スキーマ建築計画代表。1998年東京藝術大学卒業後、自身のスタジオを設立。家具から建築、そして町づくりまで、幅広いジャンルで活動。どのサイズにおいても「1分の1」を意識し、素材から探求し設計を行う。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し、「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し続けている。

Back to Top