柔らかな木肌と緊張感を持つ金属。相反する素材を巧みに組み合わせながら、不思議な浮遊感を漂わせるオブジェを手がけていく嘉手納重広。「完成形を求めない」という嘉手納のものづくりの信念とは。
なんとも言えない微妙なバランスで重なり合う、多様な形の木製ピース。手で軽く触れるだけでパーツは角度を変え、強く動かすとバラバラになってしまう繊細さを持つオブジェだ。この独特なバランスや動きは、木の内側に埋め込んだ小さな磁石が可能にするもので、削り、磨きを含むすべての製作を、作家の嘉手納重広が手作業で行っている。
「自分が物事をなんとなくおおまかに捉える“ふわふわ人間”だからでしょうか。つくるものも完全なプロダクトになりきらない、ふわふわしている存在がいいなと思っているんです」
オブジェ以外にも、花器やケース、キーリングなど、特定の機能をもったものも作っているが、そのどれもが正しい置き方や使い方を持たないとも。
「美しさやものの良さの定義は人それぞれ。僕の作品も使う人によって、どんどん意味合いが変わっていって良いと思っています。ちょっとずるく聞こえてしまうかもしれないけれど、答えはすべて相手に委ねているんです」
幼少期から図工も美術も好きで、制作にのめり込むタイプ。ときに完璧を目指すがあまり授業時間内に完成させることができず、家に持ち帰って夜中までずっと作り続けていたという。
「でも冷静に考えてみると、どこまでやれば100%になるのか。どこで制作を止めればよいのかなんて誰にも決められないんですよね。作家として活動するようになって次第にこの気持ちは収まってきましたが、それでも個展の直前になるとものすごく頭を抱えます。納得いかずに出品せず、いまだに工房の隅に眠っている作品もたくさんあります」

現在のように磁石を用いた作品づくりの根幹にも、この“不完全な感覚”は生きている。
「最初のうちはパーツの間にだぼ(木片)を入れたり、蝶番を使ったりしてみましたが、どうも美しくない。あるとき小さな磁石でトライしてみると目立たないし、何よりもオブジェが動いてさまざまな所作が生まれるのが良いなと思って」
子供の頃、意味もなく磁石にいろんなものをくっつけて遊んだ記憶が誰にでもあるだろう。無意識のうちに人の好奇心をくすぐる磁石の存在が気に入っているという。
オブジェを構成する一つひとつの立体物のフォルムにはとことんこだわり、細かなラインの成形にも手を抜かない。一方で、組み合わせたときは、一定の調和のなかに収まりつつも、どこかに抜けた感覚を残したいと語る。
「個展で作品を見てくださった方の反応を見ていると、自分のなかにそれまで感じていなかった意識が生まれてくるんですよ。すると、また作りながら、ああでもない、こうでもないと考え始める。そんな風に思考をループさせていることが楽しいのかもしれませんね」
異なる感覚の境界を行き来しながら、新しいかたちを求めて嘉手納重広は創作を続けていく。
