アイスキャンディー、ポテトチップス、皮を剥いたリンゴなど、日常のなかにある“見慣れた形”を独自の視点で切り取っていく西本良太が、創作の先に見るビジョンとは。
変化に富む四季と国土の多く占める森林。こうした環境のおかげで、日本には古くから、大工、挽物、指物といったさまざまな木を削ってものを作り出す文化が育ってきた。木工でつくられるものといえば、家や家具にはじまり、うつわや箱ものなど、日々の生活を補うための「道具」がほとんどだ。そういう視点から見ると、東京都青梅市に工房を構える木工作家、西本良太の作品づくりは一風変わっている。
「木工作家といえば、生活工芸や伝統工芸を基本とした暮らしの道具をつくっていた方が分かりやすいですよね。でも僕の場合、自分がつくりたいもの優先してを考えると、どうしても形や素材そのものに意識が向いてしまい、機能などは抜け落ちてしまうんです」
はじまりは、大学卒業後に入所した家具製作所での体験だ。西本は、日々の製作の合間に、切り落とされては捨てられていく木の削りくず「木端(こっぱ)」を使って、自分の作品を作り始めた。
「依頼を受けたものを、ただ正確に早く作れば良いという職場だったので、単価によって製作にかける時間もエネルギーもまちまち。そのなかで自分のやり方、考え方を持ちたいと、休みの日に作業場を借りて、いろいろと試作を始めたんです。そのときに材料として使ったのが、工場に転がっていた木端。家具づくりには必要とされなくなって廃棄されるゴミなはずのに、手をかけるとどんどん形を変えていくのが面白くて」
何も特別ではない素材から感じる新たな見えがかり。その魅力を探っていくうちに、西本の創作意欲はさらにモノの形へとフォーカスしていく。
「木端と同じなのですが、特定の機能からこぼれてしまったけれど興味惹かれるものって、世の中にたくさんあると思うんですよね。たとえば、僕が好きで集めているのは、ペットボトルやカップ麺、プリンやヨーグルトのケースといった、食品用のプラスチック容器。食材によって形状が異なり、メーカーや時代によって、微妙に形が変わったりもする。すべて何かしらの意味があるのでしょうが、僕たちはその意味をしらないまま、日頃その容器に触れているんです。集めて何になるのかと家族には飽きれられていますが、僕はその状況が気になるし、見落としたくないんです」

自身のものづくりがどのようなジャンルに属するものかは、明確には答えられないという西本。しかし、継続して日常を観察することで微細な違いに気づき、次々に新たな発見が繰り返されていく。
「それでもまだ勝手な思い込みが頭のなかにたくさんある。もっと自由にいろいろな世の中の見方ができるようになりたいんです」
ニュートラルな視点で世の中を読み解いていく西本良太。彼の手から繰り出されるものには、あまりにも存在が近すぎるためにうっかり見落としている素敵なものがたくさん詰まっているように思う。