白木世志一が見た
ORIHAの世界

クヌギの葉を見事な造形へと展開するアーティスト、渡邊義紘。彼の作品集『ORIHA』の撮影を手がけたフォトグラファー、白木世志一は、どのような姿勢でORIHAと向き合い、何を感じながらシャッターを切ったのか。

「義紘くんの作品と出合ったのは、10年ほど前のこと。精巧な技はもちろんですが、一枚の落ち葉がこれほどまで生命に満ち溢れた存在に形を変えられる事実に素直に感動。その健やかな佇まいにすっかり心を奪われました」

 クヌギの葉を巧みに折り曲げ、身近な動物の姿に変えていくアーティスト、渡邊義紘の作品「ORIHA」シリーズ。作品のディテールをじっくり見ていると、葉の表面にうっすら浮かび上がる葉脈がまるで動物の骨格や血管のようにさえ見えてくる。フォトグラファーとして独立したばかりだった白木世志一は、自身のポートフォリオづくりの一貫として作家に相談して、自主的に作品撮りを行った。

そこから10年。ずっと親交を重ねてきた作家家族から作品集づくりの依頼を受け、白木はあらためて渡邊の作品と向かい合った。

「色やフォーカスの調整により、いかようにも工夫して写真を撮ることはできます。でも、今回はカメラマンとしての個性を前面に押し出さないように気をつけました。自然の葉を用いた作品には、微妙に皺がよっていたり、ときに穴が空いているものもあります。素材のありのままの質感こそが作品の魅力でもあるので、写真で余計な細工をしてはいけないと思ったんです」

 一度役目を終えた自然物に、渡邊義紘が新たな命を再び与えた。そんなことを脳裏で想像しながら、単なる静物写真にはならないように、温かみのあるものとして撮影を続けた。

 作品集には、ORIHAの数々とともに、アーティストの日常風景を撮影したものも掲載されている。

「無垢に作品をつくり続ける義紘くん、そしてそれを傍でずっと見守っているご家族。その様子を見ていると、平凡であることの楽しさ、幸せが見えてくる。今回の撮影では、プロのフォトグラファーとしての視点というよりは、その風景をたまたま見た傍観者としての感覚でいたような気がします」

写真はときに、物事の背景にある事実を如実に映し出すと言われる。しかし、白木がこの作品集に込めたのは、決してドラマティックでもシリアスでもない、ありのままの状況を表現すること。白木は、改めて写真が、「そっと寄り添う存在」であることにも気づいたという。

  • Text: Hisashi Ikai
  • Photo: Yoshikazu Shiraki

白木世志一[しらきよしかず]

1970年熊本県生まれ。九州産業大学芸術学部写真学科卒業。出版社にて編集部の経験を経て、2009年にフォトグラファーとして独立。広告、雑誌をはじめ、さまざまな撮影を手掛ける。

https://www.yoshikazushiraki.com

渡邊義紘作品集『ORIHA』

80ページ
2,200

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