「迷い、見つけ、近づく」。
酒井駒子展のつくりかた。

東京・立川のPLAY! MUSUEMで開催中の「みみをすますように 酒井駒子」展。京都在住のフランスの建築家デュオ、2m26が考えた、独自の展示デザインとは。

『よるくま』『金曜日の砂糖ちゃん』などで知られる絵本作家の酒井駒子が、初となる本格的な個展「みみをすますように 酒井駒子」を開催。およそ250点の原画を展示する会場には大小さまざな形をした木の塊のなかに絵が隠れていたり、黒い小屋のなかに入って絵の世界に没入するなど、ユニークな仕掛けが多数用意されている。

会場デザインを担当したのは、フランス出身で、京都で活動する建築家ユニット、2m26。

「酒井さんのアートワークは、美しい筆のタッチが表すマチエールと絵のなかにぐっと引きこまれる緊張感が特徴的。絵本を読むと、まるで大人に向かって話しかけているようにさえ感じる。この感覚を会場でそのままに表現してみようと思ったのです」

彼らがもっとも尊重したのは、作品と鑑賞者の距離感。タワー状の展示台は形も大きさもランダムにして、いろいろな角度、高さから鑑賞の鑑賞を促す一方で、渦巻状になっている会場の特性を利用して、曲面の壁は、一定の高さにフレームを展示した。

「来場は、会場を移動するたびに、酒井さんの絵を違う角度から見えるようにと、敢えて順路は設けませんでした。最初は森の中を彷徨っているような感覚を覚えるかもしれませんが、次第に慣れていくと、自分で一番心地よいと思える景色のところで時間を過ごすようになる。鑑賞者の積極性が自然と生まれるような空間を目指しました」

会場の什器やフレームはすべて木製だが、サイズや仕様は統一せず、会場を進むと支持体にもさまざまな見栄がかりがあることに気づく。いくつかの展示台は、大人には少し小さく、子供にはちょっと大きいという、不思議なサイズ感のモジュールで展開している。これも2m26が意図的にデザインしたもので、定型と不定形、整頓と不均一の中間域にあるものを模索することで、酒井駒子の作品をよく知るものでも、改めて新鮮な視点から鑑賞ができるようにしているという。

「素材に木を用いたのは、まるで手品のように、同じ部材からいろんな形や仕掛けをつくることができるから。木は廉価で頑丈な上に、解体&再生も繰り返しできるので、移動やシステムの組み替えにも最適。巡回することを前提に企画されている本展のセッティングとしては、それ以外の素材は考えられませんでした」

シンプルな素材、合理的な機能の掛け合わせでも、視点を違えることで新たな可能性が現れることを改めて学んだと語る2m26。彼らが日本を拠点に活動を続けるのも、同じ理由からかもしれない。

「フランスでは椅子に座った生活が基本であるのに対し、日本では椅子にも、床にも座ります。椅子から床に移動するだけで目線の高さが大きく変わり、空間が一気に縦に広がる。二人とも身長が180cm近くある大柄な私たちにとっては、この空間の新しい見えがかりは大きな発見でした。人、空間、そしてそこに漂う空気感をとても繊細に、そして独特の『間』をもって捉える日本で活動を続けられていることは、とても貴重な経験なのです」

  • Text: Hisashi Ikai
  • Photo: Fuminari Yoshitsugu

2m26

メラニー・エレスバクとセバスチャン・ルノーの2人建築デュオ。ともにフランス出身で、2015年に独立し、広島を経て、京都に活動の拠点を構える。シンプルな工程から、機能的かつ現代的な家具および建築のアプローチを試みる。現在、京都郊外に購入した茅葺の民家を、自らの手で改修している。

http://2m26.com

「みみをすますように 酒井駒子」展

1114日(日)まで。

平日10時~17時、休日10時~18時。無休

PLAY! MUSEUM

東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3

Tel. MUSEUM 042-518-9625

同展は、20211211日~2022130日@長島美術館(鹿児島)以降、関西を含む数会場を巡回予定。

https://play2020.jp/museum/

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