職人のごとく、自身の手を動かしながら、モノのあるべき形を探り出していくデザイナー、吉行良平。独自のアプローチは、なにをきっかけに生まれたのか。
大阪城の南、天王寺の住宅街にある吉行良平のアトリエを訪ねると、そこには無数の素材や模型サンプルと加工工作機械が並んでおり、町工場さながらの様相を呈している。
「デザイナーの事務所って、もっと整理されていて、洗練されたおしゃれなイメージですよね。でも、僕は自分で手を動かしながら、モノを作らないと考えられないタイプ。だから、働く場所もこうした環境に自然となっていきました」
製造会社や職人との協働した家具や日用品の設計を中心に、オリジナルプロダクトの開発も同時に行う吉行良平。どことなく人懐っこくて身近に感じる存在ながら、不思議な個性も兼ね備え一度見ると忘れられない。そんな印象が、吉行のデザインにはある。


10代の頃は、華やかなデザインの世界に夢を抱きつつも、目の前に次々に現れるデザインプロダクトがどういったプロセスを経て形づくられているのか、その背後では何が起こっているのか、気になって仕方がなかったという吉行。ものづくりや職人技への憧れから、大学で金属工芸を専攻後、交換留学でフィンランドに渡り、木工技術を学んだ。
「学校の授業で数年間体験した程度のつたない技術力では、理想の形をつくることは到底できません。でも、完璧じゃないからこそ、もっと作りたいという気持ちも湧いてくる。そうやって手を動かし続けているうちに、素材や加工の特性が自ずと見えてきて、これはこのようにしかできないんじゃないかとという方法論が生まれ、形が自然に導かれていくような気がしたんです」


その後、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェン在学中より、デザイナーのアーノウト・フィッサーのアシスタントを務めたことをきっかけに、吉行のデザインの意識はさらに確固たるものになっていく。
「アーノウトは失読症ということもあって、言葉だけによる説明をとにかく嫌う人でした。デザインの手法を整理して伝える程度では納得せず、形づくって見せない限りは『お前のアイデアじゃない』と一蹴されるほど。だからこそ、より実証的なものづくりに専念するようになっていきました」
好きな形には、必ず理由がある。作業着としてずっと使っているグンゼのU首Tシャツは、なぜ魅力的に映るのか。思考を巡らせながら、手元にあった紐を両手で掴み目の前に垂らしてみると、ちょうどU首と同じような弧を描き、それが重力を形で表したものだと納得した。
「後日調べてみたら、実は着物を着た時、合わせから下着がはみ出さないようにと工夫されたものらしいですが、ゆるく垂れ下がった形が心地よく思えることに変わりはないですからね」


自らの手で素材に触れ、試行錯誤を重ねているうちに、自然に形が立ち上がってくる。ゼロからデザインを創造して加えていくのではなく、素材やプロセス、状況のなかからデザインの可能性を探し出す「Form Finder」という呼び名が、現在の自分にはぴったりくると語る。
4年前に子供が生まれ、子育てというフェーズが生活に加わった吉行。アトリエに子供がやってくることから、機械で木を切ったり、削ったりすることもままならないという。
「その代わりに手元で小さな木を削ったり、ボックスをつくったりと、細かな作業をする機会が増えました。スケッチも以前よりもたくさん描いているかもしれません。これはこれで、新しい視点が加わったような気がして楽しいです」
今後も、より身近な視点と感覚から、新しいデザインを探り出していくことだろう。