子育てのなかで、進化するクリエーション。

グラフィックデザインの視点から、立体のおもちゃに挑戦した小林一毅。育児を通じて大きく変化した、働き方やデザインの考え方とは。

「昨年に第一子が誕生。子どものためにと、集めはじめたおもちゃが、生活のなかにどんどん増えていきました。そうしているうちに、おもちゃのかたちや役割に対して、僕自身が興味を持つようになり、あるとき『自分でつくったら、どんな風になるんだろう』なんて思って」

グラフィックデザイナーとして活動を続けてきた小林一毅は、もともと3Dには苦手意識があり、立体造形にトライするのは、大学時代につくった粘土作品以来のこと。

通常、プロダクトデザイナーや工業デザイナーが手がける分野の仕事かもしれないが、歴史を遡れば、フランスの絵本作家、トミー・ウンゲラーやグラフィックデザイナーの福田繁雄など、平面の表現を主体としながら、立体のおもちゃを手がけたクリエターは何人も存在する。

小林が幼い頃、父が作ってくれたというミニカー用のマップ。代を継いで、いまは自身の子供が一番遊んでいるおもちゃだとか。
1958年から手作りで木のおもちゃを作り続ける寺内貞夫の積み木の汽車。

「プロダクトデザイナーのように機能的なデザインをすることはできませんが、物事を単純化、抽象化しながら、情緒的な面白さを際立たせるのはグラフィックデザイナーが得意とするところ。形の豊かさや手触り、色彩に注力し、感覚的に気持ちが良く、子どもが大きくなってもずっと手元に置いておけるような存在を目指していきました」

スパイラルマーケットと共同でオリジナル商品「IKKI KOBAYASHI+S」を発表。クリスマスアイテムやラッピングも作成した。

小林は平面からの発想をもとに、シルエットに厚みを持たせていくような手法で独自の造形を展開。オーガニックな形をした色違いのブロックを重ね合わせた〈熊の積み木〉や、同形のように見える四角いキューブのエッジを微細に削り、多様な動物を表した積み木〈16 ANIMALI〉など、柔らかく小さな子どもの手にも優しい、滑らかな触り心地ながら、色や形から好奇心を掻き立て、それでいて大人が見ても魅力的な美しいアートオブジェのような存在のおもちゃが完成した。

おもちゃ開発のために参考にした絵本の数々。左からどナルド・クルーズの『Flyぎん』、トミー・アンゲラーの『すてきな三にんぐみ』、そしてイエラ・マリの『あかいふうせん』。

おもちゃのデザインだけでなく、小林にとっては子育ても初めての経験。毎日が新鮮な発見の連続であるとともに、クリアしなければならない課題も次々に現れる。

「こんな貴重な体験ができるのは、手のかかる今の時期だけ。少し大きくなってくれば、すべての時間を子どもと一緒に過ごすこともできなくなる。だから家族と相談して、今だからこそできることに絞って生活することに決めました。美術大学でクラスを担当していることもあり、現在は週のうち、2日間だけをデザインする時間に充てています。」

あらゆるものに興味を抱き、予想できない反応を見せる子どもの成長とともに、自身の感覚も日々進化。制作の時間こそ減ったが、以前にもまして広い視野をもってクリエーションに没頭し、充実したアウトプットができていると実感している。

ウェブジャーナル「住む人」で週1回発表するオンライン展示「Forget me nots」のためのクリエーション。

「未来がある子どものことを考えていると、自分でつくったものも後世にきちんとしたかたちで残る、質の良いものにしていきたいと思えてくる。こうした気持ちが、ひいては子どもを取り巻く環境だけでなく、大人にも、そして社会全体に良い影響を与えていくんじゃないかと感じています」

  • Text: Hisashi Ikai
  • Photo: Kohei Yamamoto、Haruki Kodama

小林一毅[Ikki Kobayashi]

1992年滋賀県生まれ。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立。東京TDC賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞、Pentawards Silver受賞。

instagram :  @kobayashi.ikki

子育てから学ぶ、造形の魅力。
──小林一毅の「Play Time」

資生堂在籍時代から、自主的な活動を続けてきたグラフィックデザイナーの小林一毅。子育てを機に、平面から立体へと表現の領域を拡大した。

グラフィックデザイナー、小林一毅の躍動が止まらない。

資生堂クリエイティブ本部に在籍していた当初から、企業の仕事以外に自主制作として「平成話紺名紋帳」「Graffiti/Stickers」などを発表。パピエラボともコラボレーションを行うなど、自由な表現活動を行なっていたが、2020年に子どもが生まれたことで、暮らしに大きな変化が生まれた。

子育てを軸に、生活を充実させたいという思いを最優先に掲げながら、いかに仕事と自主創作、さらには自身の趣味や家族との時間をバランス良く保っていくか。そんな考えから、生まれたのが平面の感覚を立体に展開しながら、玩具の形にしていくという取り組みだった。

日頃、紙の上で展開している造形を立体に起こしたとき、いかなる新しい見え方が生まれるのか。手に触れたときどんな感触を味わうのか。子どもと時間を過ごすなかで、小林の想像はどんどん膨らんでいった。

日々の刺激や発見をクリエーションにこめながら、さまざまな形や色彩、素材、塗装を研究。また、アントニオ・ヴィターリやエンツォ・マーリが手がけた名作おもちゃなども観察しながら、年代を問わず、大人も子どもも楽しむことができる小林らしい造形美に富んだ積み木やチェスなどのアイテムが完成した。

こうして完成したシリーズ「Play Time」は、7月の金沢の「TORI」を皮切りに、今後展覧会として大阪、東京を巡回。無垢な気持ちで、クリエイティブな玩具に一度触れてほしい。

小林一毅の「Play Time」

●大阪
8
6日(土)~814日(日)

13時~19時 無休

ATAKA (大阪府大阪市生野区勝山南3-8-27)
86日 作家在廊予定

●東京
8
19日(金)~94日(日)
dessin
 (東京都目黒区上目黒2-11-1)
13
時~18時 火曜定休

820日、827日、94日 作家在廊予定

小林一毅[Ikki Kobayashi]

1992年滋賀県生まれ。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立。東京TDC賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞、Pentawards Silver受賞。

instagram :  @kobayashi.ikki

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