グラフィックデザインの視点から、立体のおもちゃに挑戦した小林一毅。育児を通じて大きく変化した、働き方やデザインの考え方とは。

「昨年に第一子が誕生。子どものためにと、集めはじめたおもちゃが、生活のなかにどんどん増えていきました。そうしているうちに、おもちゃのかたちや役割に対して、僕自身が興味を持つようになり、あるとき『自分でつくったら、どんな風になるんだろう』なんて思って」

グラフィックデザイナーとして活動を続けてきた小林一毅は、もともと3Dには苦手意識があり、立体造形にトライするのは、大学時代につくった粘土作品以来のこと。
通常、プロダクトデザイナーや工業デザイナーが手がける分野の仕事かもしれないが、歴史を遡れば、フランスの絵本作家、トミー・ウンゲラーやグラフィックデザイナーの福田繁雄など、平面の表現を主体としながら、立体のおもちゃを手がけたクリエターは何人も存在する。


「プロダクトデザイナーのように機能的なデザインをすることはできませんが、物事を単純化、抽象化しながら、情緒的な面白さを際立たせるのはグラフィックデザイナーが得意とするところ。形の豊かさや手触り、色彩に注力し、感覚的に気持ちが良く、子どもが大きくなってもずっと手元に置いておけるような存在を目指していきました」

小林は平面からの発想をもとに、シルエットに厚みを持たせていくような手法で独自の造形を展開。オーガニックな形をした色違いのブロックを重ね合わせた〈熊の積み木〉や、同形のように見える四角いキューブのエッジを微細に削り、多様な動物を表した積み木〈16 ANIMALI〉など、柔らかく小さな子どもの手にも優しい、滑らかな触り心地ながら、色や形から好奇心を掻き立て、それでいて大人が見ても魅力的な美しいアートオブジェのような存在のおもちゃが完成した。

おもちゃのデザインだけでなく、小林にとっては子育ても初めての経験。毎日が新鮮な発見の連続であるとともに、クリアしなければならない課題も次々に現れる。

「こんな貴重な体験ができるのは、手のかかる今の時期だけ。少し大きくなってくれば、すべての時間を子どもと一緒に過ごすこともできなくなる。だから家族と相談して、今だからこそできることに絞って生活することに決めました。美術大学でクラスを担当していることもあり、現在は週のうち、2日間だけをデザインする時間に充てています。」
あらゆるものに興味を抱き、予想できない反応を見せる子どもの成長とともに、自身の感覚も日々進化。制作の時間こそ減ったが、以前にもまして広い視野をもってクリエーションに没頭し、充実したアウトプットができていると実感している。

「未来がある子どものことを考えていると、自分でつくったものも後世にきちんとしたかたちで残る、質の良いものにしていきたいと思えてくる。こうした気持ちが、ひいては子どもを取り巻く環境だけでなく、大人にも、そして社会全体に良い影響を与えていくんじゃないかと感じています」