スニーカーの記憶を辿る、新しいプロダクト。

書籍、広告、サイン計画など、グラフィックデザインを軸に活動するTAKAIYAMA inc.の山野英之が手がけたスニーカー「TOUN(トウン)」。時の流れからものづくりを読み解く、独自の手法とは。

日本の礎を築いた地として、国宝や世界遺産の認定も受ける建造物を現代に残す奈良。そんな奈良の隠れた名品に、雪駄や草履、革靴、靴下など、足元にまつわるものづくりがある。

「奈良は自分が生まれ育った、思い入れのある土地。そこから新しいプロダクトを発信するにあたり、改めて奈良や地域産業の本質的な魅力について考え直す必要がありました」

県北の大和郡山市に拠点を構える靴メーカー、オリエンタルシューズと、TOUNのプロデュースを手がける奈良県東吉野のOFFICE CAMPから相談を受けたのは、奈良県出身のデザイナー、山野英之。同じエリア内には専門メーカーが複数あるだけに、単に「奈良発」にフォーカスするのでは独自性がない。そこで山野が考えたのは、スニーカーそのものの歴史を紐解きながら、そこに同社ならではの技術力を掛け合わせていくことだった。

「奈良生まれだからといって、鹿をモチーフにするのはあまりにも安易だし、スニーカーだからといってハイテクを詰め込むのもオリエンタルシューズらしくはない。そこでまず手始めに、そもそもスニーカーはどのように発展したのかという系譜を読み解くことから始めたのです。靴とは元来、足を包み込む道具でした。そこからラバーソールを使い、滑り止め効果を高めたデッキシューズが生まれ、そして多機能な競技用スニーカーへと発展した。今回は、こうしたスニーカーの変遷のストーリーを3つに分け、一連のコレクションに展開。さらに、同社が得意とする革靴に近い作り方をスニーカーに転用しながら、クッション性と堅牢性の高いプロダクトに仕上げています」

こうして、靴紐を通す穴を示すアイレットの数を冠した「Three」「Five」「Seven」というコレクションが誕生。ファーストモデルにスモーキーなグリーン/ベージュの配色を施したことにも独自の理由がある。

「長く使ってもらうためには、スニーカーの存在をベーシックでニュートラルにする必要がありました。グリーンは自然豊かな奈良の風景をイメージするとともに、性別や年代に依らないジェンダーレスな存在であれば良いと考え、ベージュと合わせながらトーンを整えていきました」

 山野英之のベースは、あくまでもグラフィックであり、プロダクトデザインの経験は少ない。しかしながら、専門外だからこそ、メーカーが持つ経験値を別の観点から検証し、ストーリー性を持たせながら、シンプルでできる限りわかりやすい形に構築し直すことができたのだと語る。カラーの選定には、建築のサイン計画を手がけた経験も生かされた。

「広告や販促物を軸としたグラフィックの仕事とは違い、今回のプロジェクトは素材からものが作られていく様子から、市場で販売され、ユーザーの手に届くまでをリアルに体験したことで、デザインの重心をどこに置くべきか、ものづくりを手がけるメーカーとどのような関係を構築すべきかなど、新しい姿勢を考えるとても良い経験でした」

https://toun-nara.jp

  • Text: Hisashi Ikai

山野英之[やまのひでゆき]

1973年奈良県生まれ。97年京都工芸繊維大学大学院修士課程修了。groovisionsNANAを経て、2002年独立。2009年に高い山株式会社を設立。書籍、ブランドデザイン、サインなど、平面から空間まで幅広く活動している。また、個人名義で作品づくりや個展を開催。「クソバッジ」「B.C.G」「YAMANOMAX」「UHS-α」などを発表する。

http://takaiyama.jp/

Back to Top