ドラァグクイーンの読み聞かせで生まれる、
自分と向き合う時間。
Drag Queen Story Hour

アンダーグラウンドカルチャーの象徴でありながら、いまではマスメディアで大活躍のドラァグクイーン。なかでも、子どもたちのために絵本を読み聞かせるイベント「Drag Queen Story Hour」が密かに話題となっている。その活動が目指すものとは。

ある日曜日の午後、子供を対象に「ドラァグクイーンが絵本の読み聞かせをする」と聞いた。“ドラァグクイーン”と“読み聞かせ”という、どことなくミスマッチな感覚と、なにか思いがけないことが起こりそうな予感を胸に会場へと向かった。

カツッ、カツッ、カツッ。20名のほどの参加者が待つ部屋にハイヒールを響かせながら入ってきたのは、全身に鳥の羽を纏ったドラァグクイーン、レイチェル・ダムール。わぁと声を上げながら拍手をする大人に対し、子どもたちの反応は、口をつぐんでじっと見つめるもの、顔をそむけて大人にしがみつくもの、ゲラゲラと笑い出すものとさまざまだ。

しかし、ひとたび読み聞かせが始まると、子どもたちはぐっと絵本の世界に集中。ドラァグクイーンと子どもたちのあいだで、ごく自然な会話のやりとりも行われる。

ドラァグクイーン・ストーリー・アワーは、アメリカ・サンフランシスコで2015年スタート。日本では東京チャプターが、自分らしい生き方、多様な性のあり方などもテーマに、2018年から独自のプログラムを展開している。3~8歳をメインターゲットとして「誰もが知っている人気本」「ドラァグクイーン自身が読みたい本」「多様性をテーマにした本」を毎回3冊セレクトし、各所で読み聞かせを行っている。

一般的な「読み聞かせ」は、知育やしつけを目的としたところも多いが、このドラァグクイーン・ストーリー・アワーは、子どもたちだけでなく、保護者や運営側など、関係するすべての人間がそれぞれに思考を深めるきっかけにもなっているとプログラム担当者は語る。

「育児経験のないLGBTQの人々と児童教育を考えたり、日常から少し外れたところで子どもとの時間を過ごす。そんななかで、子どもも大人もみんなが『自分らしさ』について考えているような気がしています」

男らしさ、女らしさ、大人らしさ、子供らしさ。そのものにふさわしい様子を表す「~らしさ」という表現も、突き詰めていくと、ときにあるべき姿を示す強制の言葉につながってしまう。

「人よりちょっと派手なメークをして、大きな衣装を着ているけれど、私は好きな格好をしているだけなの」。読み聞かせを担当したドラァグクイーンのレイチェル・ダムールがそう自己紹介した言葉には、常識の範疇では語り尽くせない超越したように見えるものにも、自然で普通の状態があることを教えてくれる。

「ドラァグクイーンと子どものやりとりを見て、日頃自分がいかに子どもを子どもっぽく、大袈裟に扱っているかに気づきました。読み聞かせも子育ても、型を気にすることなく、もっと自由にやっていいんじゃないかなと今は思っています」

イベント終了後、保護者の一人が話してくれたコメントがとても印象的だった。



協力:景丘の家 https://kageoka.com

  • カバー写真: 水戸芸術館で開催した際の様子。撮影:矢野津々美
  • 文・本文写真: 猪飼尚司
Back to Top