鈴⽊元が考える、美しさの定義。

次々に⽣まれるデザイン提案から、⼈々はどのように美意識を持ち、価値を感じ取っているのか。美の定義について、プロダクトデザイナーの鈴⽊元と考えてみた。

「特別な季節の⾏事や祭りごとなどを⽰すハレ、普段のあたりまえの状態を⽰すケ。⽇本の伝統的な世界観を表すこの『ハレとケ』に例えるならば、以前のデザインはハレの感覚を求めていたのに対し、いまは⽇常の背景を整えていくようなケの要素が強く求められているのではないでしょうか」

プロダクトデザイナーとして国内外の企業と数多くのプロジェクトを⾏なっている鈴⽊元だが、裏⽅的な⽴ち位置からものづくりに携わっていることが多い。

「外部デザイナーとしてメーカーと協業する意味は、特徴的な形を提供することではなく、あくまでも素直でフラットな感覚からそのモノの存在を⾒極めるため。デザインとは、作り手として様々な制約を引き受けながら、使い手の普通の感覚を持ち続けること。⽣活のなかに取り⼊れたときに⾃然な存在であるように、プロダクトだけにフォーカスしてデザインを考えるのではなく、敢えて視界の端の⽅に追いやり、全体をぼんやりと⾒つめている感覚に近いかもしれません」

昔から派⼿なこと、都会的なデザインよりも、柳宗理の活動に影響を受け、⽣活に根ざした地道なものづくりに従事するデザイナーになりたいと考えていたという。

「⼦供時代は、⼩⽯や⾙殻を集めるのが⼤好きで、河原や浜辺にでかけると何時間でもひたすら探していました。この頃から、なにかしら定義しきれない美しいものが好きだったように思います。美しさとは、見過ごしてしまうくらい自然なもの。そういったものの⽅が⾵景に馴染んで邪魔にならず、⻑年時間を共にすることができる。デザインも同様。トレンドに沿って変化を繰り返すのではなく、もっと⼈や環境との調和を⼤切に考えるべきものだと思うんです」

決してハレの気配を感じさせる特別なものを否定するものではないが、静かな日常こそを美しく底光りするものにしたい。そんな思いとともに、鈴⽊元はこれからの、暮らしの背景になるものを作り出していくのだろう。

  • Text : Hisashi Ikai
  • Photo: Gottingham

鈴⽊元[Gen Suzuki]

1975年⽣まれ。プロダクトデザイナー。⾦沢美術⼯芸⼤学卒業後、パナソニックを経て、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートに進む。IDEOロンドン、ボストンを経て、2014GEN SUZUKI STUDIO設⽴。Herman MillerCasper、オムロンをはじめとした国内外の企業と協働。多摩美術⼤学、武蔵野美術⼤学で教鞭を執るほか、D&AD賞審査員も務める。

https://www.gensuzuki.jp

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