見逃す視点、見間違う感覚。

千葉市美術館で開催中の「つくりかけラボ04 飯川雄大 デコレータークラブ 0人または1人の観客に向けて」。会場にいる人の行動や認識を思わぬ方向へと転換させる、アーティストの独創的な発想の裏側を覗いた。

エレベーターホールの床に置きっぱなしになったスポーツバッグ。廊下から顔をちょこんと覗かせる巨大なピンクの猫。会場の入り口を塞いでいる巨大な茶色い壁。飯川雄大さんの展示は、一見なんの脈略のないように思えるのだが、実はそのすべてが、観客自身の観察眼や行為によって思いがけない展開が生まれるという共通点を持つ。

「たとえば行ったことがない場所や見たこともないモノの情報を、写真や文字だけで理解してようとしても限界があります。しかし、こうしたうまく伝えきれていないもどかしい状況も、現場にいると人は視点を変えたり、触れたりすることで、新たに情報が追加され、次第にクリアに理解を深め、感覚を擦り合わせていく。一般的な美術展では、作品を静かに鑑賞しながらこっそりと何かを感じ取っていくというのがよくあるけれど、僕の作品は観客の行為を誘発・強制したりするもの。来場者にあるタイミングで作品の一部になってもらう必要があるんです。少しわかりづらくて、勇気がいるかもしれませんが、すべて人が必ずしも同じ理解や感動を得ずとも、一人でも『あれ?』と気付いて、そこから作品が始まるのも面白いかなって」

冒頭写真=《デコレーターズクラブ_ピンクの猫の小林さん》撮影:飯川雄大
上写真=《デコレーターズクラブ_ベリーヘビーバッグ》撮影:飯川雄大

展示タイトルにもなっている「デコレータークラブ(Decorator Crab)」とは、天敵から身を守るために、環境下にあるさまざまなものを身に付けたカニのこと。カニ自身はただ擬態して捕食者から身をかわしているだけなのに、人はそれを装飾やもっと特別な意味があると捉える。こうした誤読や曲解は日常的にもよく起きている事象で、人間らしい自発的行動、自由な発想の現れとも言える。こうした視点の切り替えの原点は、飯川さんの少年時代に遡る。

「子供の頃、実家の部屋が6畳くらいだったんですが、ただ漠然とこれと同じ大きさのものが、部屋の中にあったら邪魔だなとか、大変だなと空想していました。その記憶は大人になってもたまに蘇ってきて、面白いなと思うようになったんです。作品を作るようになってからは、その状況や想像がなぜ興味をそそるのか。また、その感覚を共有するのはなぜ大変なんだろうと、理由を考えるようになったんです」

人は目の前のものからしか情報を取り込めず、見えない部分や把握できないことに対して不安になる。知ってるはずの自分の部屋のサイズや目の前のものが何か把握できないから想像したくなる。そんな仮説をもとに、目の前に見えているものとは違う現実と直面したとき、人はどのように反応するのかを飯川さんは作品から誘発している。

《デコレーターズクラブ_0人もしくは1人以上の観客に向けて》撮影:飯川雄大

冒頭で解説した展示作品群のなかで、巨大なピンクの猫は、かわいいからと写真を撮ろうとしても、どう頑張っても全身が写せないような設計に。また、置き去りになったバッグを忘れ物かと持ち上げようとしても、重すぎて容易に持ち上げることができず、通行を邪魔する大きな壁は実は可動式で、手で押すとどんどん奥へと下がっていく。目視だけでは判断できないものに満ちた空間のどこかに、人々は自分の力で新しい意識を見出していく。

多様な情報が瞬時に飛び交い、コミュニケーション過多と言われるほどの世の中でも、一方で思想の予定調和が起こりやすく、マイノリティの意見を大切に取り上げる風潮はいつまで経っても現れない。こうした社会に対するアンチテーゼも、少なからず飯川さんの作品には込められているのだ。

今回の千葉市美術館の作品のなかには、どうしても一人の力ではどのように機能しているのか確認できない作品があるというのもトピック。自分の行為がどのように作品に影響しているのか。一緒に来た人や、同じ時間に訪れている人々と相談しながら、鑑賞してみるのも面白いかもしれない。

  • Text: Hisashi Ikai

飯川雄大[いいかわたけひろ]

1981年兵庫県生まれ。2003年成安造形大学卒業。認識の不確かさにフォーカスしながら、作品と鑑賞者が能動的に関わり、新たな反応示す作品を手がける。インスタレーションのほか、映像、写真、イラストなど、その表現手法は多岐にわたる。六本木クロッシング2019、ヨコハマトレンナーレ2020に参加するほか、高松市美術館にて個展「デコレータークラブ 知覚を拒む」を開催。10月1日からすみだ向島EXPO2021に出品。今春には、兵庫県立美術館、国立国際美術館の展覧会に参加予定だ。

https://takehiroiikawa.tumblr.com/

つくりかけラボ04 飯川雄大 デコレータークラブ — 0人もしくは1人以上の観客に向けて

会期:2021714()103()

休館日:82()96()

開館時間 10001800(金土は~20:00)

入場料:無料

会場 千葉市美術館4階 子どもアトリエ

千葉市中央区中央3-10-8

TEL043-221-2311

https://www.ccma-net.jp/exhibitions/lab/21-7-14-10-3/

家具職人・鰤岡力也の仕事

インテリアだけでなく、店舗什器として扱われる椅子やカウンターといった家具も、店のコンセプトを伝える大切なツール。人気ショップを数多く担当する家具職人の鰤岡力也のデザインアプローチを聞いてみた。

「手伝ってくれる人はいますが、メインの作業は一人が基本。小さなアトリエであまり営業らしいこともしていないのに、仕事の依頼がもらえるのはありがたいですね」

190cm近い長身から長い手足をぶらりと伸ばしながら、穏やかな口調で話す鰤岡力也さん。話題の飲食店、ブティック、ショールームとコラボレーションを重ねながらも、鰤岡さんの仕事に対する姿勢はいたってマイペースだ。

独立以前は、輸入古材などを扱う「ギャラップ」で働いていたが、家具製作に関してはほぼ独学。いまだ徒弟制が残る家具工房出身の職人が多いなか、それでここまでキャリアを続けられるのは異例だとも言える。

「中学生のときにアメカジにはまって以来、いつも僕の興味の中心にはアメリカンカルチャーがありました。ギャラップ時代も、お店にやってくるのは『バックドロップ』や『プロペラ』といった渋谷・原宿の人気ショップ関係者など、肩の力が抜けたセンスの良い大人ばかり。そんな人々と交流を重ねているうちに、家具やインテリアのノウハウは知らずとも感覚がどんどん研ぎ澄まされていき、自分だったらはこうものが作りたいと強く思うようになったんです。でも今冷静になって考えると、あんなに無知だったのによく独立したと思いますよ」

ギャラップ卒業後は、カントリー家具店「Depot39」の天沼寿子さんや、美術家でデザイナーの吉谷博光さんなど、時代を切り開いてきたクリエイティブな先輩たちのサポートもあり、順調に経験を重ねていく。しかし、依頼をすべて受けていたら仕事が集中し、35~36歳の頃は、2日おきに徹夜するほど多忙を極めた。

「そんなとき父が突然他界したんです。人生いつ何が起こるか分からないことを実感しました。それまでお願いされていた仕事も十分楽しいものだったんですが、この出来事をきかっけに自分でやりたいに100%フォーカスしていようとシフトチェンジしたように思います」

その後、フォトグラファーの平野太呂さん、パドラーズコーヒーなどを運営する松島大介さん、建築事務所のすわ製作所など、鰤岡さんにさらなる刺激を与えるメンバーとの出会いから、次々に新しいプロジェクトが生まれた。

「技術的に優れた家具職人は数えきれないほどいます。でも僕にあるのは、空間全体の空気を読み解きながら、木工だけでなく金具や仕上げのディテールまでこだわり抜き、美しい風景を完成させたいという気持ちだけ。一人でできることには限りもありますが、規模小さくとも妥協のない空間をこれからも目指していきたいと思います」

既製品はほとんど使わず、小さな部材まですべてオリジナルで手がけていく鰤岡さん。プロジェクトが進行するほどに新しいアイデアが次々と現れ、空間を埋め尽くしていく。鰤岡さんの手がけたさまざまなショップを訪れ、家具や建具のディテールまで眺めてみるのも面白いかもしれない。

  • Text: Hisashi Ikai

鰤岡力也[ぶりおかりきや]

1976年東京都生まれ。「Gallap」「Depot39」を経て、2003年に独立。2010年自身のスタジオMobley Worksを設立する。以降、店舗の内装設計、家具製作を手がける一方で、オリジナル家具の企画・販売も行う。代表作に「Paddlers Coffee」「KITTE 旧東京中央郵便局長室」「松㐂」など。

https://www.mobley-works.com

記憶の連鎖から広がっていく風景。

日本からフィンランドに移住して13年。テキスタイルデザイナーでアーティストの星佐和子が創作の拠点を北欧の国に決めているのは、彼女なりの理由がある。

「フィンランドに暮らしていて、常に鮮明に感じているのは、自分の周囲にいる人たちとの距離感や関係性。私が外国人であることや、小さな子供を育てていることも少しは影響してくれるのかもしれませんが、周りの人が親切に振る舞ってくれます。でもそれでいて、適切なディスタンスがあり、決してお節介にはならない。それぞれのパーソナルスペースをしっかりと尊重しているように感じるのです」

 生まれも、育ちも東京という星さん。小さな頃から多くのモノと人に囲まれて生きてきた。出会いの可能性がたくさん存在する一方で、それがものすごい勢いで通り過ぎていく日常。数えきれないほどの情報を見聞きしているのに、アクションを起こさなければ何も感じ取ることができない。

「ここにいると、人間関係だけでなく、自分が何とつながっていて、何を大切だと思っているかを肌で感じ取ることができるんです。フィンランド人はあまり無駄な買い物をしないのですが、倹約家というよりも、それぞれが独自の感覚で本当に素敵だと納得するものにしか手を出さないからのような気がします」

 生活者のこだわりが強い分、デザインの役割も大切になる。北欧デザインにシンプルで簡潔な表現が多いのも、こうしたことが理由だろうと星さんは考察する。そんな星さんがデザインの核として捉えているのは、どのようなものなのだろうか。

「私のデザインは、決して見たままの景色を写し撮ったものではありません。フィンランドの冬はとても厳しく、その間あまり外にでることができない代わりに、夏のあいだはいろいろなところに出かけたり、旅をしたりします。訪れた土地で見た美しい風景を目に焼き付けながら、私はそこに漂っている匂いや頬にそよぐ風といった感覚までもどんどん記憶のなかに刻んでいくのです。創作の時が来ると、脳裏に目一杯に広がる記憶を辿り、独自の世界を再び巡っていきます。もしかしたらいま私が思い出している記憶は、また誰かの記憶とつながるかもしれない。そんな感情のゆらぎをも筆先に託して、描いているように思います」

幻想的なイメージのなかに隠されているのは、心の変化を細やかに捉える鋭敏な感覚。見るものも自らの経験や記憶と重ね合わせて、想像を広げられるからこそ、星さんの作品は多くのものの心を惹きつけるのだろう。

  • Text: Hisashi Ikai

星佐和子[ほしさわこ]

1986年東京都生まれ。武蔵野美術大学卒業後、2008年にフィンランドに移住。アアルト大学修士過程修了。以来フィンランドに拠点を構え、創作を続ける。テキスタイルデザインを軸に、MarimekkoSamujiUNIQLOなど、国内外のブランドと協働。今年オリジナルブランド「arkietti」を設立する。

http://www.sawakohoshi.com

星佐和子|展覧会情報

arkietti 1st exhibition 「alku
2021916日(木)~920日(月)
12:0018:00

TEGAMISHA GALLERY soel
東京都調布市下石原2-6-14 ラ・メゾン2
TEL. 042-444-5572

https://tegamisha.com

漂流物に投げかける自由な視線。

浜辺に流れ着く漂着物に新たな見立てを加え、オリジナルのアートワークを作り出すユニット、オートゥルノトゥルス。昨年末、活動の地を淡路島から沖縄に移した彼らは、いまどのような景色を見ているのだろう。

 大洋に面した海岸線には、流木、貝殻、サンゴといった自然物はもちろんのこと、ブイや魚網などの漁具、ペット飲料や洗剤ボトルなどのプラスチック容器といった人工物を含むさまざまな漂着物が流れ着く。こうした漂着物を拾い集めては、オリジナルの真鍮パーツと組み合わせ、美しいオブジェに仕立てていくオートゥルノトゥルスは、尾崎紅がデザインを考え、種村太樹が金工で仕上げていくアーティストユニットだ。

最初に収集を始めたのは、大学時代、沖縄を拠点にカヤックで全国を旅していた種村の方。浜に打ち上げられているさまざまな漂着物のなかでぱっと目に入ってくるものを、特に目的もなく拾い集めていたという。その頃、東京の美術大学に通っていた尾崎紅と出会い、尾崎が種村のコレクションを“新鮮なもの”に感じたところからクリエーションが始まる。

「一般には“海洋ごみ”と呼ばれる世の中には不必要なものなのに、まだ人の興味をくすぐる不思議な魅力がある。どのような経緯でこのような形になったのか。原型はどんな状態だったんだろう。どんどん頭のなかで想像が広がっていくんです」

そう語る種村に、尾崎も続く。

「海岸に漂着したものは、なにか生き物の最終形のようでありながら、見るものがそれぞれに自由な視線を投げかけることができる余地があるのが面白い。だからこそオブジェのデザインにも、鑑賞や飾り方を限定しないようなゆとりを残しているように思います」

金工で加えていく真ちゅうのパーツも、次第に明るい金色から赤みを帯びた深い茶色へと経年変化していく素材。オブジェとなってもなお移ろう姿を見て、目にする気持ちも日々揺れ動き、また新たな視線を投げかける。

昨年末には、8年を過ごした淡路島を離れ、沖縄県今帰仁村に移住した。

「淡路島にいたときは、大阪にも近いことから日本の都市から流れ着いたと思われるモノがたくさんありました。一方、外洋に面している沖縄の浜には、国内だけでなく遠い違う国から流れ着いたものもたくさんありますし、一度生命を終えた多様なサンゴも見られ、とにかくカラフルな印象です」

現在は壁や天井に固定するタイプのオブジェが創作のメインだが、今後は公共施設に置かれるような大型のものから、身につけられる小型のものまで、飾るという目的だけに限定されない新たな存在を目指したいと語る。

自由に波間を漂い、辿り着いた美しい何かを求めて、オートゥルノトゥルの2人は、今日も浜辺を歩き続ける。

  • Text: Hisashi Ikai

O’ Tru no Trus[オートゥルノトゥルス]

種村太樹と尾崎紅によるアーティストユニット。2014年に出会い、淡路島に移住。2017年から本格的な製作を開始し、2019年にminä perhonen eläväで開催した「seed of sea」で個展デビュー。合同展「Tracing the roots」に参加するほか、各地の企画展に参加している。95日まで銀座のCIBONE CASEにて展覧会を開催中。9月4日〜9月12日、Knulp AAにて個展を開催。

https://www.otrunotrus.com

見逃したくない、日常のかたち。

アイスキャンディー、ポテトチップス、皮を剥いたリンゴなど、日常のなかにある“見慣れた形”を独自の視点で切り取っていく西本良太が、創作の先に見るビジョンとは。

変化に富む四季と国土の多く占める森林。こうした環境のおかげで、日本には古くから、大工、挽物、指物といったさまざまな木を削ってものを作り出す文化が育ってきた。木工でつくられるものといえば、家や家具にはじまり、うつわや箱ものなど、日々の生活を補うための「道具」がほとんどだ。そういう視点から見ると、東京都青梅市に工房を構える木工作家、西本良太の作品づくりは一風変わっている。

 「木工作家といえば、生活工芸や伝統工芸を基本とした暮らしの道具をつくっていた方が分かりやすいですよね。でも僕の場合、自分がつくりたいもの優先してを考えると、どうしても形や素材そのものに意識が向いてしまい、機能などは抜け落ちてしまうんです」

 はじまりは、大学卒業後に入所した家具製作所での体験だ。西本は、日々の製作の合間に、切り落とされては捨てられていく木の削りくず「木端(こっぱ)」を使って、自分の作品を作り始めた。

「依頼を受けたものを、ただ正確に早く作れば良いという職場だったので、単価によって製作にかける時間もエネルギーもまちまち。そのなかで自分のやり方、考え方を持ちたいと、休みの日に作業場を借りて、いろいろと試作を始めたんです。そのときに材料として使ったのが、工場に転がっていた木端。家具づくりには必要とされなくなって廃棄されるゴミなはずのに、手をかけるとどんどん形を変えていくのが面白くて」

何も特別ではない素材から感じる新たな見えがかり。その魅力を探っていくうちに、西本の創作意欲はさらにモノの形へとフォーカスしていく。

「木端と同じなのですが、特定の機能からこぼれてしまったけれど興味惹かれるものって、世の中にたくさんあると思うんですよね。たとえば、僕が好きで集めているのは、ペットボトルやカップ麺、プリンやヨーグルトのケースといった、食品用のプラスチック容器。食材によって形状が異なり、メーカーや時代によって、微妙に形が変わったりもする。すべて何かしらの意味があるのでしょうが、僕たちはその意味をしらないまま、日頃その容器に触れているんです。集めて何になるのかと家族には飽きれられていますが、僕はその状況が気になるし、見落としたくないんです」

 自身のものづくりがどのようなジャンルに属するものかは、明確には答えられないという西本。しかし、継続して日常を観察することで微細な違いに気づき、次々に新たな発見が繰り返されていく。

「それでもまだ勝手な思い込みが頭のなかにたくさんある。もっと自由にいろいろな世の中の見方ができるようになりたいんです」

ニュートラルな視点で世の中を読み解いていく西本良太。彼の手から繰り出されるものには、あまりにも存在が近すぎるためにうっかり見落としている素敵なものがたくさん詰まっているように思う。

  • Text: Hisashi Ikai

西本良太[にしもとりょうた]

1977年東京都生まれ。東京学芸大学を卒業後、家具製作会社勤務を経て、2008年に独立。木工作家として日用品を手がける一方で、機能性をもたないオブジェ作品も手がける。主な個展に「ACTUAL SIZE(PLACE by method2018年、土谷みおとの2人展「something something」スパイラル/2020年などがある。

http://www.nishimotoryota.com

美しさを極める、不完全な感覚。

柔らかな木肌と緊張感を持つ金属。相反する素材を巧みに組み合わせながら、不思議な浮遊感を漂わせるオブジェを手がけていく嘉手納重広。「完成形を求めない」という嘉手納のものづくりの信念とは。

なんとも言えない微妙なバランスで重なり合う、多様な形の木製ピース。手で軽く触れるだけでパーツは角度を変え、強く動かすとバラバラになってしまう繊細さを持つオブジェだ。この独特なバランスや動きは、木の内側に埋め込んだ小さな磁石が可能にするもので、削り、磨きを含むすべての製作を、作家の嘉手納重広が手作業で行っている。

「自分が物事をなんとなくおおまかに捉える“ふわふわ人間”だからでしょうか。つくるものも完全なプロダクトになりきらない、ふわふわしている存在がいいなと思っているんです」

 オブジェ以外にも、花器やケース、キーリングなど、特定の機能をもったものも作っているが、そのどれもが正しい置き方や使い方を持たないとも。

「美しさやものの良さの定義は人それぞれ。僕の作品も使う人によって、どんどん意味合いが変わっていって良いと思っています。ちょっとずるく聞こえてしまうかもしれないけれど、答えはすべて相手に委ねているんです」

幼少期から図工も美術も好きで、制作にのめり込むタイプ。ときに完璧を目指すがあまり授業時間内に完成させることができず、家に持ち帰って夜中までずっと作り続けていたという。

「でも冷静に考えてみると、どこまでやれば100%になるのか。どこで制作を止めればよいのかなんて誰にも決められないんですよね。作家として活動するようになって次第にこの気持ちは収まってきましたが、それでも個展の直前になるとものすごく頭を抱えます。納得いかずに出品せず、いまだに工房の隅に眠っている作品もたくさんあります」


現在のように磁石を用いた作品づくりの根幹にも、この“不完全な感覚”は生きている。

「最初のうちはパーツの間にだぼ(木片)を入れたり、蝶番を使ったりしてみましたが、どうも美しくない。あるとき小さな磁石でトライしてみると目立たないし、何よりもオブジェが動いてさまざまな所作が生まれるのが良いなと思って」

子供の頃、意味もなく磁石にいろんなものをくっつけて遊んだ記憶が誰にでもあるだろう。無意識のうちに人の好奇心をくすぐる磁石の存在が気に入っているという。

オブジェを構成する一つひとつの立体物のフォルムにはとことんこだわり、細かなラインの成形にも手を抜かない。一方で、組み合わせたときは、一定の調和のなかに収まりつつも、どこかに抜けた感覚を残したいと語る。

「個展で作品を見てくださった方の反応を見ていると、自分のなかにそれまで感じていなかった意識が生まれてくるんですよ。すると、また作りながら、ああでもない、こうでもないと考え始める。そんな風に思考をループさせていることが楽しいのかもしれませんね」

異なる感覚の境界を行き来しながら、新しいかたちを求めて嘉手納重広は創作を続けていく。

  • Text: Hisashi Ikai

嘉手納重広[かでなしげひろ]

沖縄県生まれ。23歳で上京し、木彫教室のアシタントをしながら木工の技術を習得する。2010年から個人名で作品を発表。近年は、Knulp AACIBONEarchipelagoといったギャラリーショップでの個展を中心に活動を行う。

https://www.instagram.com/shigehiro_kadena/?hl=ja

Reframe Labが目指すもの。

BaBaBaで開催中の「もるめたも展─あそびとへんしんの研究所」を企画したReframe Lab。アートを軸に教育の可能性を引き出そうとさまざまに取り組む彼らが考えていることとは。

いまいちど、子どもの目の前に広がる世界を大きく捉え、自由な想像力がいかに人の豊かさや未来の可能性を広げるか。そんな思いを胸に活動を続けているのがReframe Labだ。

誰でも子どもの頃はたくさんの夢を思い描き、世界を希望と可能性に満ちたものだと信じていた。しかし、成長とともにいつのまにか社会の枠組みに囚われ、がまんをしたり、制限を感じたりしながら生きている。

Reframe Labは、精神科医、キュレーター、教育関係者など、各分野の専門家たちが集まり、アートを軸とした展覧会やワークショップ、勉強会などを開催しているのだが、なぜアートをフックにするのか。

「アーティストの目[mé]が、アートは『人間の感受性を肯定する装置』だと説明していたことが、強く印象に残っています。定義しきれない無限の広がりと可能性を持つアートに触れると、人が持つすべての感覚や感情が作用しはじめ、それぞれに異なる反応を示すもの。固定観念に縛られる以前の、ありのままの自分が現れるといっても良いかもしれません」

児童向けのプログラムが活動の中心だが、年代にかかわらず大人もいまの世界を捉え直せるような内容を考慮。息苦しさに満ち、価値観が凝り固まったってしまった社会に一石を投じようとしているとReframe Labの中心メンバーは語る。

方法論はシンプルで、視覚以外にも聴覚や触覚など、持てる五感を最大に活用し、自分の知覚センサーを解放する仕組みを考えていく。例えばそこでは「うるさくて静か」「長くて短い」など、両義的な意味を持つ感覚が生まれたり、一つの要素が次々に変化を繰り返し、体験する人や環境、時間によって異なる感覚・感情が続々と現れ、新しい発見と出合う。

Reframe Labが目指すところに、ゴールはない。あそびに夢中になって日が暮れていることにすら気づかないように、余計なものに邪魔されずにただ好きなものに没頭し、自ら深くに入り込んでいく感覚を育てたい。好きでい続けられることこそが、Reframe Labが考える「あそび」と「まなび」の意義であり、人の自然な姿なのだ。

  • Text: Hisashi Ikai

テキスタイルデザイナー、
星佐和子の世界を身近に感じる。

ヘルシンキを拠点に活躍するテキスタイルデザイナー、星佐和子が自身のオリジナルブランドをスタートした。

細密なタッチと落ち着いた色調で、美しい世界を描き出すテキスタイルデザイナーの星佐和子。Marimekko、Samuji、UNIQLOなど、国内外の著名ブランドとのコラボレーションワークでも知られる人気のアーティストだが、この度、自身初となるオリジナルライフスタイルブランド「arkietti(アルキエッティ)」を立ち上げた。

arkiettiは、フィンランド語の「arkielämä(日常)」と「yrtti(ハーブ)」を掛け合わせた造語で、普段の暮らしのなかに、いつもとは少し違う、特別なエッセンスを漂わせたいという思いが込められている。ハンドミラー、ハンカチやマスキングテープ、ポストカードなど、アイテムはどれも身近で、すぐに使いたくなるものばかり。

家族とともに暮らすフィンランドの雄大な自然、印象に残った景色の記憶をたぐり寄せ、独自のタッチで写し取っていく星佐和子の作品は、ひそやかに、そっと心に寄り添い、日常を彩ってくれる。

参加型アートプロジェクト、「つくりかけラボ」の
第4弾を、飯川雄大が担当。

昨年末から千葉市立美術館がスタートし、来場者も制作に参加・体験することで話題を呼んでいる「つくりかけラボ」。その第4弾を、アーティスト飯川雄大が担当する。

アーティストの滞在制作を含む千葉市美術館のアートプログラム「つくりかけラボ」。本プロジェクトが目指しているのは、来場者が作家とともに制作したり、連続してワークショップを体験できること。美術が特別な才能を持つ人に許された存在ではなく、誰しもが感覚を共有し、楽しめるものであることを理解できるとして、話題を呼んでいる。

昨年の開始から、これまで遠藤幹子、志村信裕、武藤亜希子といった気鋭の美術家が参加したこの実験的なプロジェクト。その第4弾を、兵庫県出身のアーティスト、飯川雄大が担当する。

飯川は、日常の中で見落とされてきた普遍的な事象、そこに投げかけられる人間のあいまいで不確かな意識にフォーカス。鑑賞者が自身の身体を通じて、その不思議な現象に自ら気づく、ユーモアに満ちたインスタレーションなどを手がけ、「六本木クロッシング」(2019年)やヨコハマトリエンナーレ(2020年)といった大規模展覧会にも参加してきた。

今回の「つくりかけラボ04」では、天敵から身を守るために身の回りのものを隠れ蓑にしていく蟹「デコレータークラブ」に発想を得たプランを展開。蟹がプロテクターとして装備するものを人はデコレーションと捉えるように、一方向のコミュニケーションから起こる感覚のズレ、そこから生まれる新しい感覚を来場者とともに考えてゆく。

《デコレータークラブ ―ピンクの猫の小林さん》2020年|木材、蛍光塗料|サイズ可変|
並木クリニック中庭の展示風景(2020)、横浜市金沢区並木団地|撮影: 阪中隆文
《デコレータークラブ 配置・調整・周遊》2020年|木材、塗料|サイズ可変|
ヨコハマトリエンナーレ2020、プロット48の展示風景|撮影: 飯川雄大
《デコレータークラブ ―ベリーヘビーバッグ》2010年|バッグ6点、ビデオ(サウンド、50秒)|
ヨコハマトリエンナーレ2020、プロット48の展示風景|撮影: 大塚敬太 写真提供:横浜トリエンナーレ組織委員会

  • Text: Hisashi Ikai

デコレータークラブ — 0人もしくは1人以上の観客に向けて

会期:2021714()103()

休館日:82()96()

開館時間 10001800(金土は~20:00)

入場料:無料

会場 千葉市美術館4階 子どもアトリエ

千葉市中央区中央3-10-8

TEL043-221-2311

https://www.ccma-net.jp/exhibitions/lab/21-7-14-10-3/

すべての本質は、土に還る。
「MINO SOIL」展リポート。

岐阜県美濃地方に伝わる陶磁産業の価値を再発見するために開催されたMINO SOILの展覧会「ARCHAEOLOGY OF MINO」。スタジオ・ムンバイがインスタレーションを手がけた会場には、さまざまな表情を見せる土の塊がいくつも並ぶ。

床に等間隔に置かれた一辺が15センチほどのキューブは、採取した原土のまま乾燥・焼成したもので、その一部にはリサイクル土も混合している。対を成す白と黒のオブジェは、なんと廃業した原料メーカーのタンクのなかで20年間放置されていた粘土の塊を焼き上げたものだとか。また、会場奥には、6000万年前にできた風化花崗岩「藻珪(ソーケー)」を小高く盛った土の山も見える。

さらに、原土を採掘する鉱山をダイナミックなランドスケープのように捉えた高野ユリカの写真作品と、録音家、藤口諒太が録音、編集した美濃の鉱山に響くサウンドが、会場に独自の空気感を作り出していく。

本展は、これまでに建築家やデザイナーに向けたタイルのオーダーメイドプロジェクト「TAJIMI CUSTOM TILES」や窯元に残るデッドストックタイルなどを一つから購入できるECストア「TILE KIOSK」を展開してきたプロジェクトチームが手がけたもの。

会場を出たときに頭を巡っていたのは「モノはどこからきて、どこに向かうのか」という根源的な疑問だった。我々が「美濃焼」という言葉から想像するのは、タイルや陶磁器といった身近なプロダクトだが、それらすべてが会場内に陳列されている自然土から派生したものであり、そもそも素材にも強烈な魅力が存在している。美濃の焼き物の本質的な魅力とは、生活を彩る美しいかたちを作り出す以前に、これら素材の個性を作家や職人、メーカーがいかに読み解き、それぞれの適性を巧みに導き出す技にあるように思われた。

日本を代表する陶磁器産業の聖地が現状に甘んじることなく、こうした実験的なプロジェクトを通じて、次世代につながる新たなフェーズに歩みを進めている様子は頼もしく感じる。

  • Text & Photo: Hisashi Ikai
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