現代デザインの考え方とつくり方。/we+

物事の裏に潜む背景を丁寧に拾い出し、リサーチと実験から次なるビジョンを追求するコンテンポラリーデザインスタジオ、we+(ウィープラス)。自主プロジェクトを次々に起こし、拡張することを止めない彼らの原動力はどこから生まれたのか。

瞬時に人々の興味をそそる美しい形を生み出すことこそが、デザインの真髄だと信じている人は多い。しかし、これほど世の中が大量のもので溢れ、価値観がどんどん多様化していくなかで、私たちはデザイナーに何を託せばいいのだろう。

「僕たちが社会に出た頃、時代は就職氷河期の真っ只中。世の中はなんとも言えない閉塞感に包まれていました。デザイン界には、偉大な先輩方が築いてきたメインストリームがある一方で、未熟な自分たちは最初からレールから外れたイレギュラーな存在。見通しが立たないなかでも、試行錯誤しながら自分たちのポジションを意図的に設計していく必要があったんです」

自然現象をテーマにしたNature Studyから、今春発表した最新プロジェクトの「MIST」。
言語、科学、物理など、多角的な視点から“霧”を探り、そのふるまいをインスタレーションで表現した。

近代デザインが大量生産&大量消費という社会経済システムのなかで大きく成長したとするならば、持続可能な社会を目指す現代では、モノを取り巻く環境、社会のあり方を改めて検証し、これからの世界に本当に必要な事象へと変えていかなければならない。そう感じていた林登志也と安藤北斗はwe+を設立してすぐに、独自の手法で新しいデザインのあり方を模索し始めた。

「『これをつくろう』ではなく、『これはなんだろう?』『何のためにこうなっているのか?』という疑問提起からすべてが始まります。調査、実験を繰り返すなかで、時には自分を疑い、違う視点から状況を見直すなどして、目的の設定を何度も確認し合う。手間が多く、遠回りをした分、より多様で柔軟性をもった考えや解像度の高いビジョンが生まれてくるように思えるんです」

2014年にミラノサローネ・サテリテで発表した「MOMETum」。超撥水加工を施した天板の上を、水滴の群れが動き続ける。
水のかたまりが次々にかたちを変えていく様子をただ見つめているだけで、不思議と感覚が動き始める。
(クリエイティブ・コレクティブKAPPES名義による制作)

禅問答にも似たプロセスを行き来していると、本来の目的を見失ってしまう可能性もある。それを回避し、より思考をクリアにしていくために彼らが取り入れたユニークな手法は、「we+さん」というもう一つの人格を設定することだった。

「『we+さん』という第三者的視点から自分たちの言動を俯瞰してみる。『we+さんだったらどう考えるだろう?』とか『これはwe+さんっぽくないよね』など、フラットな視点で意見交換をしているとプロジェクトの軸が明確になり、さらなる疑問や興味が湧いて、アウトプットの仕方ももっと増えてくる」

磁力によって細かな鉄線が構造体に密着し、複雑なフォルムを形成する「Swarm」と
乾燥による土の割れや風化した岩石を彷彿とさせる「Drought」。

既存の枠に収まらず、ぐんぐんと活動領域を広げていくwe+は、現在、そしてこれからの我々にとって、物語を語り継ぐ感覚こそが大切だと話す。

「古代の逸話が何世紀もの時代を超えて神話として語り継がれていくように、物語を紡いでいけば、より持続する世界を目指すことができる。単に新しいデザインができましたというニュースではなく、どうしてそのプロジェクトが生まれたのか、なぜいまの社会に必要なのか、誰がどのようにつくったのかなど、誕生に関わった人々の想いを丁寧に拾い、繋いでいけば、気持ちにすとんとおさまるものが生み出せる気がしています」

道なき道をかき分け、突き進んでいくwe+。見方によっては、その歩みはとてもゆっくりとしたものに思えるかもしれない。それでも彼らが一歩ずつ丁寧に踏みしめた場所には、後に同じ所を通る人が迷ったり、間違った道を進まないような確実な足跡が残っているような気がする。


次々に店舗がつくられては壊される商業施設で生まれる廃材やサンプル材を現場で粉砕し、新たな素材・建材に再生する「LINK」。
捨てられる運命だった素材に、場の記憶をつなぐ装置としての新しい生命を与えていく。

次々に店舗がつくられては壊される商業施設で生まれる廃材やサンプル材を現場で粉砕し、新たな素材・建材に再生する「LINK」。捨てられる運命だった素材に、場の記憶をつなぐ装置としての新しい生命を与えていく。

  • photo: Masayuki Hayashi
  • text: Hisashi Ikai

we+[ウィープラス]

林登志也と安藤北斗が2013年に設立したコンテンポラリーデザインスタジオ。独自のリサーチと実験をベースに、これまでにない新たな方向から、産業やテクノロジーのあり方、自然との共存を目指す表現を目指す。R&Dやインスタレーション等のコミッションワーク、ブランディング、プロダクト開発、空間デザイン、グラフィックデザインなど、幅広い領域で活動を続ける。

https://weplus.jp

Back to Top