長坂常が綴る、『半建築』という感覚。

建築と家具のあいだ、未完であること、見えない開発。建築家、長坂常が考える「半建築」の魅力と可能性とは。

歴史ある印刷工場の軌跡を残しつつ、通り大きく開かれたガラスのファサードや展示什器にも転用可能な可動式の壁で、空間の印象を大きく変えたBaBaBa。リアルとオンラインのはざまを行き来しながら、オルタナティブな活動を試みるBaBaBaの設計を担当したスキーマ建築計画の長坂常が、自身が唱える独自の建築哲学をまとめた著書『半建築』を刊行した。

建築家の書籍としては珍しく、図面や細かな設計に関する専門的な著述はなく、いかに自身の体験や感覚が関わった建築&デザインプロジェクトに反映されていたかを、等身大の言葉で表現。レゲエに傾倒した10代の記憶、大学からスキーマ設立に至るまでのエピソード、シェアオフィスHAPPAをつくりながら感じたことから始まり、代表的なプロジェクトの背景を紹介。現地で解体しながら無駄な要素を引き算していった初期の作品「sayama flat」から、複数の店舗を担当した「Blue Bottle Coffee」や「DESCENTE BLANC」。そして自ら古民家を買い取り、仲間と協力しながら改修、運営までに携わった最新作「LLOVE HOUSE ONOMICHI」に至るまで、25年あまりのキャリアを振り返りながら、一つひとつの物語を丁寧に語り紡いでいる。

「半建築」とは、実際に空間を使う生活者が自由に入り込むことができない、“余地のないキメ顔”の建築ではなく、“抜き差しなる関係”を受け入れるおおらかさを持つ存在。常に現場に赴き、自身の感性をフルに活かしながら、建築を取り巻くすべての要素をリアルに生かしていく長坂の姿勢が、いかに我々の日常を活気づけ、時代を更新しているかが、本著を通して見えてくる。

Musashino Art University No.16 Building, 2020 ©Kenta Hasegawa
DESCENTE BLANC Yokohama, 2017 ©Kenta Hasegawa
ColoRing, 2013 ©Takumi Ota
Sayama Flat, 2008 ©Takumi Ota
SENBAN/Salone del Mobile 2021 ©Schemata Architects
BaBaBa, 2021 ©Takumi Ota

『半建築』

著:長坂常

デザイン:長嶋りかこ+稲田浩之/village®︎

発行:フィルムアート社

四六判・並製、256ページ

2,640円

http://filmart.co.jp/books/architecture/nagasakajo/

長坂 常|ながさかじょう

スキーマ建築計画代表。1998年東京藝術大学卒業後、自身のスタジオを設立。家具から建築、そして町づくりまで、幅広いジャンルで活動。どのサイズにおいても「1分の1」を意識し、素材から探求し設計を行う。日常にあるもの、既存の環境のなかから新しい視点や価値観を見出し、「引き算」「誤用」「知の更新」「見えない開発」「半建築」など独特な考え方を提示し続けている。

「all is graphics」展 
KIGl、その成長の軌跡。

クリエイティブユニット〈KIGI〉が、設立から10年を記念し、これまでの活動と新作を発表する企画展「all is graphics」を開催する。

KIGIの活動領域は実に広い。

クリエイティブディレクターの宮田識が主宰を務める広告制作会社、DRAFTから独立。2012年にKIGIを立ち上げた植原亮輔と渡邉良重は、ともに前職からの広告やブランディングを中心としたグラフィックワークを軸に据えながらも、琵琶湖一帯の職人たちと協業した「KIKOF」、ファッションブランド「CACUMA」、ギャラリーショップ「OUR FAVORITE FHOP」、そして直近では、アイウエア「TWO FACE」など、次々に新しいプロジェクトを自らの手で立ち上げ、実現してきた。

さらには、研究の一環としてドローイング、写真、映像、オブジェ、インスタレーションなど、あらゆる領域に積極的にトライ。クレマチスの丘・ヴァンジ彫刻庭園美術館、宇都宮美術館での個展を開催した実績も持つ。

彼らの自由でバリエーションに富んだ表現は、まさに多様性が問われる現代に適した取り組みだとも言えるだろう。

本展では、これまでに手がけた代表的な作品を展示する一方で、彼らが軸とするグラフィック=視覚芸術がいかにほかの領域に影響を及ぼし、展開していくかの様子を探っていく。

渡邉良重のドローイングを元につくられたラグ「into the field」
信楽焼を現代的に展開したテーブルウェア「KIKOF」
植原亮輔のプライベートワーク「LIFEBLOOD」。
正面と側面からの見えがかりが変化する眼鏡「TWO FACE」は、2022年11月にローンチ予定。

all is graphics

11月10日(木)~11月27日(日)

11時~20 時(最終日は17日まで)無休

料金:500円(高校生以下無料)

ヒルサイドフォーラム(東京都渋谷区猿楽町18-8 ヒルサイドテラスF棟)

Tel. 03-5489-1267

 

●アーティストトーク

11月16日(水)

18時30分~20時

料金:500円

*Peatixにて要予約

 

●演奏会「時間の標本」

11月19日(土)

開場:15時30分 開演:16時

会場:ヒルサイドプラザ

出演:阿部海太郎(ピアノ)、小寺里枝、佐藤恵梨奈(ヴァイオリン)、春日井恵(ヴィオラ)、越川和音(チェロ)、本多啓佑(オーボエ)、中田小弥香(ファゴット)

料金:大人5,500 円、高校生以下2,500円

*オンライン(ZOOM)にて配信

*Peatixにて要予約

主催:株式会社キギ

協力:HILLSIDE TERRACE, CLUB HILLSIDE

EMARF DESIGN FES #01

BaBaBaでは、木材をつかったものづくりをより素早く、自由に、安価に行うデジファブサービス「EMARF」に関する第2弾の展覧会、「EMARF DESIGN FES #01」を開催します。

本展覧会では、次世代の設計者の支援と育成を目指したオンラインプラットフォーム「EMARF CONNECT」第一期生の取り組みを展示。2022年7月から限定募集した100名の受講生と共に取り組んだ作品づくりのプロセスと結果を通じて、これから動き出そうとしているビジョンも紹介していきます。4つのコアデザインブースでEMARF CONNECTの魅力と可能性を読み解いていきます。その他、ワークショップやオンラインでのトークイベントも多数実施されます。

|会期|2022年9月23日(金) – 10月2日(日) ※休館日9月26日(月)

|会場|BaBaBa 東京都新宿区下落合 2-5-15-1F 

|時間|平日12-19時 土日祝11 – 18時

|EVENT|

ワークショップ

❶南信州タモ材でつくるフラワーベース
無垢材タモとテンプレートツールをつかってオリジナルフラワーベースがつくれます。
https://emarf-designfes-ws1.peatix.com

❷不揃いなタンコロでつくる木トレイ
木を山から切ってくる過程で捨てられてしまう根本の丸太「タンコロ」とテンプレートツールをつかって、オリジナル木トレイがつくれます。
https://emarf-designfes-ws2.peatix.com

❸手書きパタンでつくるスツール
手書きで書いた模様をGrasshopperをつかってデジタルパターンへと変換しオリジナルパターンスツールがつくれます(後日発送)。
tps://emarf-designfes-ws3.peatix.com

開催日時    9月23日、9月24日、9月25日、10月1日、10月2日

要予約制。EMARFホームページよりご予約くださいませ。

ガスーが、世界をめぐる。─ひらのりょう

昨年12月にBaBaBaでいち早く特別上映&展示されたアニメーション作家、ひらのりょうの最新作「ガスー』。独創的な世界観と高いクリエイティビティが評価されている。

ジャンルを超えて活躍するアニメーション作家、ひらのりょう。7年ぶりとなる新作『ガスー』は、タイを中心に東南アジア諸国に伝わるおばけ、ガスーが日本のヤクザと遭遇することからはじまる、独自のストーリーによるアクション&ホラー・ムービーだ。

BaBaBaでの特別展示には、ひらのりょうと親交の深い作家が多数参加。アニメーション作品の上映だけにとどまらず、ガスーをテーマにした絵画や立体作品、衣装のほか、ガスー特製アイシングクッキーも用意され、より広く、自由な感覚で作品の世界観を楽しむことができる展示となった。わずか1週間の展示期間にもかかわらず、アート関係者のみならず、子どもを含む一般客も大勢来場。メディアにも取り上げられた。

この展示をきっかけに2022年2月には恵比寿映像祭にて上映。さらにアヌシーアニメーション映画祭(フランス)を皮切りに、ファンタジア映画祭(カナダ)、アニミスト・タリン(エストニア)、コンコルト映像祭(イタリア)、インディ・アニフェスト(韓国)ほか、海外15ヶ所以上で連続的に上映が続き、ガスー旋風を巻き起こしている。

『ガスー/Krasue

監督:ひらのりょう

(日本/アニメーション/12分/2021年)

ひらのりょう

1988年埼玉県生まれ。多摩美術大学情報デザイン学科卒業。文化人類学から、フォークロア、サブカルチャーなど、多領域に意識を向けながら、ポップでディープ&ビザールな作品を手がける。アニメーションに限らず、イラスト、マンガ、紙芝居、VJ、音楽など、表現形態は多岐にわたる。代表作に『河童の腕』『ホリディ』『Hietuki-Bushi』など。

http://ryohirano.com

企画展「ひらのりょう監督新作短編アニメーション『ガスー』SCREENING & SPECIAL EXPERIENCES」は、202112 2026日の期間で、BaBaBaにて開催。

〈展覧会参加アーティスト〉

ひらのりょう:短編アニメーション作家/漫画家

井上涼:アーティスト

大橋裕之:漫画家

OperturaIndependent Animators 

冠木佐和子:アニメーション作家、イラストレーター

菊地雄太:造形家

キサブロー:着物デザイナー

最後の手段:映像チーム

重田介:映像作家

スケラッコ:漫画家

たかくらかずき:アーティスト、アニメーション作家

Q:アニメーション作家

矢野恵司:イラストレーター

山田遼志:アニメーションアーティスト

若井麻奈美:アニメーション作家

あおやま あや:お菓子作家

主催:株式会社コーズサッチ/FOGHORN    プロデューサー 谷川千央

助成:ARTS for the future

時間をかけて、馴染んでいく存在。──BAILER

ファッションとしてだけでなく、アウドドアやインテリア小物としても使いこなせると人気のバッグ、BAILER。船道具から発想を展開した、サスティナブルなものづくりを考える。

直島や小豆島行きのフェリーが行き交う宇野港がある岡山県玉野市は、三井造船のお膝元として発展した、日本有数の船の街だ。

「もっとゆったりとした感覚で、産地と直接関係を持ちながら、アップサイクルな仕事がしたい」。東京でアパレルの仕事をしていた岩尾慎一さんと洋子さんがこの港町に引っ越してきたのは8年前のこと。

何のコネクションもなく、少し時間を持て余していた折に、知人から「船に乗ってみないか」と言われ、小型船舶の免許取得に出かけた慎一さんが、乗り込んだ船でたまたま見かけたのが、赤い布製のバケツだった。

「この布バケツは、『淦汲み(あかくみ)』といって、火災が起きた時に海水を汲み上げて消火に用いるための船舶の法定備品。武骨だけど、シンプルで素直な佇まいをしている。これを普段使いのものにできたらいいなと思ったんです」

画像に alt 属性が指定されていません。ファイル名: A8A4619-1024x683.jpg

船道具のプリミティブな形は守りつつ、大きさや形、ベルトのボリュームなどを独自にアレンジ。紡績業も盛んな岡山のネットワークをたどり、地元、倉敷の帆布を生地に、加工、縫製まで、すべて地元メーカーと連携によって誕生したのが「BAILER(ベイラー)」だ。

地道なものづくりの手段を守っているので、生産できる数量にはある程度の限定があるが、それでも素朴なバッグはさまざまなスタイルに合うと、長年愛用するファンも幅広い。そんな人々のために、岩尾さんたちは、ベイラーのバッグを企画販売するだけでなく、リペアサービスも行なっている。

「使い続けていただくなかで、持ち手がほつれたり、ぽっかりと穴が空いてしまったものもあります。『どうやって使って、こんなふうに成長したんだろう?』と、頭のなかでオーナーの暮らしぶりを想像しながら、補修している時間も結構楽しいんですよ」

防水加工をほどこしている以外、特別な機能は持たないシンプルな円柱型のバッグ、BAILER。堅牢かつ普遍的なものだからこそ、ずっとそばに寄り添いながら、自然に体や風景に馴染んでいく存在となるのだ。

  • Text:: Hisashi Ikai
  • Photo:: Masako Nakagawa

3日かぎりの、サマーマーケット。
―BaBaBa Market

大好評だった今年2月のBaBaBa Market。さらに新たなメンバーを加え、盛りだくさんのコンテンツで、8月19、 20、21日の3日間、再びBaBaBaで開催します。

2回目を迎える「BaBaBa Market」は、BaBaBaが運営する高田馬場のリアルスペースとウェブマガジンをオルタナティブにつなぐイベントとして、ジャーナルに登場したさまざまなクリエイターの作品をマーケット形式で紹介していく。

開催は、8月19日~21日の3日間。新たなメンバーも加わり、全10組が参加し、夏真っ只中の週末のBaBaBaが、賑やかなマーケットとしてオープンする。

● 吉行良平
大阪を拠点の活躍するプロダクトデザイナー。実験的なアプローチから生まれたユニークな作品ほか、オリジナルブランド「Oy」の商品も。

● Nutel
エッチングで描いたような独特のラインは、すべてミシン刺繍によるもの。独創的な造形の額装や動物をモチーフにした立体作品も展示販売。

● 中川正子
何気ない日常風景に眠る美しい光の世界を、ファインダーを越しに掬い取る写真家、中川正子。今回はオリジナルプリントほか、ポストカードやTシャツなどを展示販売する。

● 星佐和子
フィンランドで活躍するテキスタイルデザイナー、星佐和子のオリジナル原画を展示。そのほかテキスタイルや雑貨も紹介する。

TILE KIOSK
日本有数のタイルの産地、多治見一帯で作られたユニークなフォルムのタイルを、一枚から販売。

● 鰤岡力也
大阪を拠点の活躍するプロダクトデザイナー。実験的なアプローチから生まれたユニークな作品ほか、オリジナルブラ木工作家、鰤岡力也がデザイン、製作したスツールやテーブルを展示。受注販売する。

● 鈴木元
物事の真髄を極めた、無垢なデザインを手がける鈴木元の作品から、錯視効果のあるフラワーベース「OBLIQUE」ほかを紹介。

● BAILER
岡山でアップサイクルなものづくりを目指す、BAILER(ベイラー)。代表的な円柱形バッグを各種取り揃える。

● fuufuufuu
テキスタイルデザイナーとしての経験を生かし、木村文香が手がける見た目にも美しいグラフィカルな押し寿司を販売。

● LAND(生花)
繊細で独創的な色合わせが話題のフラワーアーティスト、川村あこがアレンジした生花を販売。彼女セレクトのフラワーベースも揃う。

  • Text: Hisashi Ikai

BaBaBa Market Vol. 2

2022819日(金)21日(日)

1118

BaBaBa

東京都新宿区下落合2-5-15-1F

TEL. 03-6363-6803

子育てから学ぶ、造形の魅力。
──小林一毅の「Play Time」

資生堂在籍時代から、自主的な活動を続けてきたグラフィックデザイナーの小林一毅。子育てを機に、平面から立体へと表現の領域を拡大した。

グラフィックデザイナー、小林一毅の躍動が止まらない。

資生堂クリエイティブ本部に在籍していた当初から、企業の仕事以外に自主制作として「平成話紺名紋帳」「Graffiti/Stickers」などを発表。パピエラボともコラボレーションを行うなど、自由な表現活動を行なっていたが、2020年に子どもが生まれたことで、暮らしに大きな変化が生まれた。

子育てを軸に、生活を充実させたいという思いを最優先に掲げながら、いかに仕事と自主創作、さらには自身の趣味や家族との時間をバランス良く保っていくか。そんな考えから、生まれたのが平面の感覚を立体に展開しながら、玩具の形にしていくという取り組みだった。

日頃、紙の上で展開している造形を立体に起こしたとき、いかなる新しい見え方が生まれるのか。手に触れたときどんな感触を味わうのか。子どもと時間を過ごすなかで、小林の想像はどんどん膨らんでいった。

日々の刺激や発見をクリエーションにこめながら、さまざまな形や色彩、素材、塗装を研究。また、アントニオ・ヴィターリやエンツォ・マーリが手がけた名作おもちゃなども観察しながら、年代を問わず、大人も子どもも楽しむことができる小林らしい造形美に富んだ積み木やチェスなどのアイテムが完成した。

こうして完成したシリーズ「Play Time」は、7月の金沢の「TORI」を皮切りに、今後展覧会として大阪、東京を巡回。無垢な気持ちで、クリエイティブな玩具に一度触れてほしい。

小林一毅の「Play Time」

●大阪
8
6日(土)~814日(日)

13時~19時 無休

ATAKA (大阪府大阪市生野区勝山南3-8-27)
86日 作家在廊予定

●東京
8
19日(金)~94日(日)
dessin
 (東京都目黒区上目黒2-11-1)
13
時~18時 火曜定休

820日、827日、94日 作家在廊予定

小林一毅[Ikki Kobayashi]

1992年滋賀県生まれ。2015年多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。資生堂クリエイティブ本部を経て2019年に独立。東京TDC賞、JAGDA新人賞、日本パッケージデザイン大賞銀賞、Pentawards Silver受賞。

instagram :  @kobayashi.ikki

生まれ変わる、家具と馬具。
──COSONCO QS(コソンコクス)

北海道に拠点を構える家具メーカーのカンディハウスと馬具を手がけるソメスサドル。製造の過程から生じる端材に、次なる可能性を見出し、合同で立ち上げる新たなブランド「COSONCO QS(コソンコクス)」とは。

北海道の中央にそびえる大雪山から、西に向かってゆったりと蛇行しながら、日本海へと流れる石狩川。美しい大河を挟むようなかたちで存在する家具メーカーのカンディハウスと馬具をはじめとした革製品を手がけるソメスサドルは、ともに1960年代創業の、北海道を代表するメーカーだ。

家具と馬具という異なる業界にありながら、ともにハイレベルなものづくりを目指し、ときに技術協力というかたちで関わりをもってきた両社には、ともに生産の過程から生まれる端材をどうにかして再利用したいという共通の望みがあった。相談を受けて、工場に赴いたデザイナーの倉本仁は、素材を見た瞬間、思い描いていたものとのギャップに衝撃を受けた。

「“端材”と聞くと、不必要になった使えない素材という印象ですが、そこにあったのは端材と呼ぶべきではない優良な材料ばかり。素性を生かして、より豊かなモノの価値が作れると直感したのです」

上質なものづくりを目指すメーカーだからこそ、扱う材料の基準は確か。しかしながら、手がける家具や馬具はサイズが大きいため歩留まりの調整が難しく、一定量の良質な余剰材が常に生まれてしまうという。

倉本は、なんとかしてこの貴重な素材の魅力を最大限に引き出したいという気持ちから、アートオブジェと機能的なプロダクトの中間に位置する「Functional Toy」という存在を目指した。かわいらしい北海道の動物をかたどった置物や建築物のフォルムを展開したブックエンドや小物入れ。そして、遊び道具やスポーツ用具などから発想を展開したオブジェ。卓越した職人の技に裏付けられた、滑らかなに削り出された木目やレザーの上を交差する細やかなステッチが、造形美をさらに際立たせる。

「暮らしのなかに置いて、目や指先で愛でることで心が豊かになる。便利な機能性はなくとも、十分に心理的な作用をもっていると思うんです」

コソンコクスは日本のものづくりが、単なる確実で丁寧なものに留まらず、人の心に静かに浸透し、ともに進化を遂げていく可能性をもっていると物語っている。

  • Text: Hisashi Ikai

倉本仁[Jin Kuramoto]

1976年兵庫県生まれ。金沢美術工芸大学卒業後、家電メーカーを経て、2008年にスタジオを設立。ストーリーを明快な造形表現へと転換し、家具から日用品、家電、自動車まで、幅広い分野のデザインを手がける。

http://www.jinkuramoto.com

Drag Queen Story Hourが
BaBaBaにやってくる!

3歳から8歳の子どもたちを対象に、ドラァグクイーンが絵本の読み聞かせを行う「Drag Queen Story Hour」が、夏休み期間中の7月と8月に、BaBaBaでの連続開催。読み聞かせに加え、今回だけのスペシャルプログラムも行われる。

2015年にサンフランシスコでスタートし、2018年日本にも上陸した「Drag Queen Story Hour」。昨今話題のLGBTQや多様性の意識はもとより、何よりも先入観や既成概念にとらわれず、子どもたちと自由な感性のふれあいを目指して、ドラァグクイーンが絵本の読み聞かせを軸とした独自のプログラムを展開してきた。

これまで全国各地の児童館や美術館などで活動をしてきたDrag Queen Story Hourが、ついにBaBaBaにやってくる。従来のプログラムに加え、今回はスペシャル企画として、変身コーナーも登場。

簡単な工作をしながら、常識にとらわれず、思い通りの自分に変身する。ドラァグクイーンが色とりどりのドレスをきて、ちょっと派手なお化粧をして、自分の好きな姿でいるみたいに、色紙を切ってカラーネールにしてみたり、ビニール袋をマントやスカートにしてスーパーヒーロー/ヒロインになったり、画用紙で大きなツノをつくって怪獣やおばけになったり。

子どもたちだけでなく、このときは大人も一緒に変身を楽しみます。大好きな自分になったら、ドラァグクイーンや一緒にきた家族、友達との撮影タイム。

これまでの『もるめたも』展やひらのりょうのガスー展の開催時には、同じ通りにある保育園、幼稚園に通う生徒や、近隣のおとめ山公園に散歩に訪れた家族が立ち寄るBaBaBaが、地域交流や児童支援を考え、夏休み期間中の7月、8月に連続開催します。


7月31日のプログラム

読み聞かせクイーン:オナン

・絵本の読み聞かせ/3冊の絵本を、ドラァグクイーンが読み聞かせ。
・おはなし/絵本にまつわる話題を、子どもたちと一緒におしゃべり。
・変身コーナー/かんたんな工作で。自分の好きな姿に変身。
・撮影タイム/変身した姿で、ドラァグクイーンと一緒にパチリ。

  • Text: Hisashi Ikai

Drag Queen Story Hour in BaBaBa

828日(日曜)

開始:13時 終了:15時(予定)

*要予約

参加費:子ども(3歳~8歳)、および同伴者は無料。大人のみの参加は1,000円。

定員:子ども 20名(先着順)

予約:下記リンクからお申し込みください

協力:ドラァグクイーン・ストーリー・アワー東京、日本児童教育専門学校

 

https://service.underdesign.co.jp/drag-queen-story-hour-in-bababa

ステッチが描き出す、
新たな感覚の日常。_Nutel

ミシンを使って、自由な世界を描き出すNutelの渡邊笑理。創作の裏側に広がる感覚を探る。

白い布の上に、舞うように広がるいくつもの黒い線。Nutelとして活動する渡邊笑理は、筆の代わりにミシンを使って絵を描いているアーティストだ。

生まれ育ったのは、滋賀の山あいにある、家族が経営していたシャツ縫製工場のすぐとなり。高速で針を落とすミシンの音や油の匂いには、子供の頃から慣れ親しんでいたこともあり、ごく自然で身近な存在に感じていた。

「田舎でのんびりと過ごしていた私でしたが、毎年お盆にやってくる東京の叔母だけは別格。テキスタイルデザイナーだった彼女はとてもおしゃれで、ずっと憧れていました」

中学1年生のとき、そんなおばからおみやげでテキスタイルの図案集をもらった。絵はずっと好きだったが、それが仕事になることを知った渡邊は、高校には美術部に所属し、そのまま美大のテキスタイル科に進学。学生最後の夏休みに東京に行き、叔母のテキスタイル会社の手伝いをして、卒業後、就職を決めた。

寝具からインテリア、タオルなど、さまざまなジャンルのテキスタイルデザインを経験し、ノウハウも学んだ。しかし、同時にミシンを踏む面白さをもっと自由に表現したいとも思うになった。

「最初のきっかけは、レコード店の友人からCDジャケットのデザイン依頼でした。ペンや絵の具ではない、なにか違うやり方をしてみたいと思っていたときに、まずは実家からもってきたミシンで縫ってみたんです。さらに、叔母が使っていたミシンが自由に曲線を縫うことができる“フリーモーション”だったことに気づいて、これならもっと細かく絵が描けると確信しました」

その2年後、運命的なできごとが起こる。旅で訪れたイギリスのマーケットで、ミシンで描かれた絵を見つけて、購入。帰国後、友人のレコードショップのオーナーが『これ笑理ちゃん好きそうじゃない?』と勧めてくれたCDのジャケットを開くと、そこにイギリスで買った絵と同じものがスリーブのなかに描かれていたという。

「Racheal Daddのアルバム『Summer/Autumn Recordings』でした。あまりの偶然にびっくりしちゃいました。しばらくして彼女が来日したので、是非会いたいと思っていたら、なんと彼女のライブで音楽に合わせて、私が自由に縫っていくライブソーイングのチャンスがもらえたんです。この経験がとても楽しくて、さらにのめり込んでいきました」 

これをきっかけにNutelの活動を本格的に開始。筆や手縫いよりもあっという間に線が描けるミシンは、せっかちな性分に合っているというが、素材は布と糸のみで、線もステッチに限定されることを彼女はどう感じているのだろう。

「制限によって感覚がよりクリアになりますし、自分なりの表現を深掘りしていく感じがします。針の動きは均等に見えて意外と不規則なもの。凝視してみると、ステッチの凹凸や裏表の関係もクセがあって面白いんですよ」

描くのは日常の風景がほとんど。山に登った時に道端に生えていた草花や、近所の通りで見かけたおじさん。なんでもないような景色もNutelが絵にすると、感じたことのないような不思議な感覚が広がる。

「ミシンでさっと描いた線は、単純そうに見えて意外と複雑。日常だけど非日常のような世界に入っていくような。作品をつくっていても、もう一人の自分と対話しているような感じがします」

彼女にとって、ミシンは自分の本質と向き合い、世界を理解するための媒介の一つなのかもしれない。

渡邊笑理[Eri Watanabe]

滋賀県生まれ。嵯峨美術短期大学テキスタイル科卒業後、テキスタイルデザイン会社を経て、2003年頃からミシンを使ったフリーハンドステッチで絵を描きはじめる。2021年にアトリエを東京・新富町に移転。併設のギャラリーではさまざまな企画展も行っている。Nutelは、おしゃれな外国語のように聞こえる「Nutel」は、渡邊の出身地である関西圏の方言「縫うてる」が語源。

Instagram @nutel_eri

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